ガスダーミンD分子による炎症性サイトカインの成熟?分泌に関する調節プロセスの解明

掲載日:2021-6-23
研究

金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の土屋晃介准教授とがん進展制御研究所の須田貴司教授らの研究グループは,ガスダーミンDという分子が,どのように炎症性のサイトカインの成熟と分泌を調節しているか,そのプロセスを解明しました。

免疫機能は,私たちの健康を維持するために必要な機能です。サイトカイン(※1)は,免疫系細胞から分泌される物質の一種で,細胞間の情報伝達や,免疫細胞の活性化や抑制など,免疫機能のバランスを保つための役割を担っています。炎症性のサイトカインは,侵入した微生物の排除などを助けますが,過剰に分泌されると自らの組織や細胞まで傷つけてしまうことがあります。私たちの免疫機能に関する理解を深めるためには,免疫細胞からどのようにサイトカインが分泌されるのか明らかにすることが重要であり,がん研究を含む幅広い分野とも関連する課題です。一部の炎症性サイトカインは,最初に未熟型として細胞内で作られますが,特定の刺激が加わることで活性が高い成熟型に変換されて細胞外に放出されます。インターロイキン-1α(IL-1α,※2)はその代表例であり,IL-1αの成熟化と放出はインフラマソーム(※3)と呼ばれる免疫機構を活性化する刺激によって強く誘導されます。しかし,インフラマソームの活性化がどのような分子メカニズムを経てIL-1αの成熟化に至るのかは長らく不明でした。

本研究では,ガスダーミンD(GSDMD,※4)と呼ばれる特殊な細胞死を司る分子に注目し,その分子がどのように炎症性サイトカインの成熟と放出を調節しているのかを明らかにしました。具体的には,インフラマソームの働きによって活性化されたGSDMDが細胞膜に小さな孔を形成し,その孔からカルシウムイオンが細胞内に流入することでカルパイン(※5)という蛋白分解酵素が活性化し,カルパインが未熟型IL-1αを切断するといったプロセスで,IL-1αが成熟型に変換されるということが分かりました。また,IL-1αは成熟型に変換されることでGSDMDの孔から効率的に放出されることも分かりました。さらに,これら一連のプロセスがマウスの生体内やヒトのマクロファージでも観察されることを示し,種を越えて多様な状況で起こり得ることが示唆されました。

本研究の成果は,GSDMDによる細胞膜の孔形成がIL-1αの成熟化と放出の両方に重要な役割を果たすことを示すものです。これまでに感染モデルにおける宿主防御や炎症性疾患モデルにおける病態形成にGSDMDとIL-1αの両者が関与する例が多数報告されています。今後,この成果は,そのような各種疾患の病態解明や制御法の発展につながることが期待されます。

本研究成果は,2020年3月23日に国際学術誌『Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。

 

図1

感染やストレスなどの刺激によって活性化するインフラマソームは,カスパーゼ-1というタンパク質分解酵素を活性化することで炎症応答を促進する。カスパーゼ-1活性化の下流では炎症性サイトカインであるIL-1αの成熟化が起こるが,未熟型IL-1αはカスパーゼ-1の基質ではなく,カスパーゼ-1がどのようにしてIL-1α成熟化を誘導するかは長らく不明であった。本研究では,ガスダーミンDと呼ばれる細胞死の実行因子がこのシグナル伝達経路の鍵になることが明らかになった。ガスダーミンDはカスパーゼ-1によって切断されると細胞膜に孔を開ける。この孔を通って細胞内に流入したカルシウムイオンがカルパインというタンパク質分解酵素を活性化し,カルパインによってIL-1αが成熟化することが分かった。

 

 

 

 

【用語解説】
※1  サイトカイン
細胞,特に免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質。インターロイキン,インターフェロン,腫瘍壊死因子などを含む多くの種類が知られており,それぞれが多様な生理活性を示す。免疫系を活性化するタイプだけでなく抑制するタイプも存在し,免疫機能のバランスを保っている。炎症応答を引き起こすものは炎症性サイトカインと呼ばれる。

※2  インターロイキン-1α
炎症性サイトカインの一種。最初は未熟型として作られ,分泌シグナルを持たないため細胞内に蓄積するが,インフラマソームの活性化などが起こると活性が高い成熟型に変換されて細胞外に放出される。細胞外においてIL-1受容体に結合して炎症性のシグナルを伝達する。

※3  インフラマソーム
感染や細胞ストレス,異常な代謝産物,粒子状物質などの刺激によって細胞質内に作られるタンパク質の集合体。タンパク質分解酵素であるカスパーゼ-1を引き寄せて活性化する。活性化されたカスパーゼ-1は炎症性サイトカインの成熟化や細胞死を誘導することで炎症を促進する。

※4  ガスダーミンD
細胞質に存在し,カスパーゼ-1によって切断されると細胞膜に穴を開けるタンパク質。この細胞膜の穴から細胞内へ水などが流入すると,細胞が膨らみ,最終的に破裂する。このような細胞の死に方はパイロトーシスと呼ばれている。

※5  カルパイン
カルシウムイオンの濃度上昇によって活性化されるタンパク質分解酵素のグループ。細胞死,細胞の移動,形態変化,発生,免疫などの広範な生命現象に関わる。未熟型IL-1αはカルパインの基質の一つであり,切断されることで成熟型に変換される。

 

Cell Reports

研究者情報:土屋 晃介

研究者情報:須田 貴司

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