金沢大学医薬保健研究域医学系のRoboon Jureepon 博士研究員,服部剛志准教授,堀修教授らの共同研究グループは,脳のグリア細胞の活性化を抑制することにより,神経炎症を抑える働きをする化合物を発見しました。
神経炎症は脳と脊髄において病原体の侵入や神経の損傷に応答して一時的に起こり,病原体や傷ついた細胞を取り除きます。しかし,慢性的に神経炎症が続くと神経細胞を傷害し,アルツハイマー病のような神経変性疾患の進行に関与することが分かっています。したがって,神経炎症を抑制する分子を見つけることが,神経変性疾患などの予防や治療法の開発へつながると考えられています。
本研究グループは,脳においてニコチンアミドジヌクレオチド(NAD+)を増やす作用を持つ化合物が,神経炎症を抑制し,それによる神経の障害も軽減することを発見しました。
これらの知見は将来,神経炎症が関与する病気であるアルツハイマー病などの神経変性疾患,老化,うつ病などの予防?治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は,2021年4月19日に米国科学誌『Journal of Neurochemistry』にAccepted Articleとして掲載されました。
図1.
あらかじめNRおよびアピゲニンを,1回/日×1週間連続投与したマウスでは神経炎症とそれによる神経の障害が軽減する。
図2.
NRやアピゲニンを投与すると脳内のNAD+の量が増加し,ミクログリアとアストロサイトの活性化を抑制する。その結果,神経炎症が軽減し,神経細胞の障害も軽減される。