生物学の常識を覆す イオン挙動の新メカニズムを解明

掲載日:2021-5-11
研究

本研究成果のポイント:

◆生物学の教科書では,カリウムチャネルにおいて,カリウムイオンはナトリウムイオンの10000倍流れやすく,ナトリウムイオンは殆ど通らないと説明されてきました。本研究により,カリウムチャネルを流れるナトリウムイオンの流れを世界で初めて測定することに成功し,その透過性はカリウムイオンの80分の1であることが分かりました。カリウムチャネルの選択性が過大評価されていたことが明らかになりました。

◆カリウムチャネルには細い穴があり,この経路をカリウムイオンは直線的に流れるのに対し,カリウムイオンより小さなナトリウムイオンは経路の途中で細い穴の壁に近づいて引っかかりながら流れていることがコンピュータシミュレーションにより分かりました。

◆「チャネルの穴をカリウムイオンより小さなナトリウムイオンがなぜ通りにくいか」,という数10年にわたる難問に対してそのメカニズムを世界で初めて解明しました。

 

金沢大学ナノ生命科学研究所の炭竈 享司特任助教は,福井大学高エネルギー医学研究センター老木成稔特命教授らとの研究グループにおいて,生体膜にある「カリウムチャネル」を通るイオン挙動を実験とシミュレーションによって明らかにしました。これまで生物学の教科書では,カリウムチャネルはナトリウムイオンを殆ど透過させないと説明されてきましたが,この常識を覆す成果が得られました。世界で初めて,カリウムチャネルの中をナトリウムイオンが流れる所を捉え,その仕組みを解明しました。

本研究成果は2021年3月23日(米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要『PNAS』のオンライン版に掲載されました。

 

図1. 

カリウムチャネルでのナトリウムイオンとカリウムイオンの透過機構の違い。小さなナトリウムイオンは選択性フィルターの壁に接近して強く結合することで透過が遅くなる。一方,大きなカリウムイオンは選択性フィルターの壁に接近し過ぎず結合が強くなり過ぎないため速く透過する。

 

 

 

 

詳しくはこちら

PNAS

研究者情報:炭竈 享司

 

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