金沢大学ナノマテリアル研究所の德田規夫教授,松本翼准教授,張旭芳特任助教,坂内和斗氏(研究当時:大学院自然科学研究科電子情報科学専攻博士前期課程)らの研究グループは,ドイツDiamond and Carbon Applicationsのクリストフ E. ネーベルCEO(本学リサーチプロフェッサー(招へい型))との共同研究により,ダイヤモンドの研磨代替技術となる機械的ダメージフリー平坦化技術を開発しました。
カーボンニュートラル実現のために,半導体デバイスの更なる省エネ化が必要となり,次世代ワイドバンドギャップ半導体の開発が期待されています。その中でも特に高い絶縁破壊電界とキャリア移動度,熱伝導率,そして長時間の量子情報保持などの特長を有するダイヤモンドは,究極の半導体デバイス材料として期待されています。しかし,そのデバイスの土台となるダイヤモンドウェハの製造コストや製造プロセスに関する課題がダイヤモンド半導体の応用を大きく制限しています。
2021年2月に,德田らの研究グループはニッケル中への炭素固溶(※1)によるダイヤモンドエッチングを基軸としたニッケル鋳型を用いたダイヤモンドのインプリント技術を開発しました。インプリント技術は,大量生産?低コスト化に有効なプロセス技術であり,ダイヤモンドのデバイス構造作製のための加工プロセスとして期待されています。一方,ダイヤモンド表面の平坦化には一般的に機械研磨が用いられています。しかし,機械研磨では一見平坦な表面が形成できても,ダイヤモンド表面に機械的なダメージが入り,デバイス特性が劣化することが知られていました。今回,本研究グループが開発した機械的なダメージが入らないインプリント技術を応用し,ダイヤモンドとニッケルを接触させアニールするだけで,平坦なニッケル表面を単結晶ダイヤモンドに転写する新しいダイヤモンドの平坦化法を開発しました。
今後,本研磨代替技術を発展させ,ダイヤモンドウェハの研磨技術の課題であった機械的ダメージフリー?大面積?低コスト化を解決し,ダイヤモンド半導体の実用化に向けて大きく前進することが期待できます。
本研究成果は,2021年4月9日にElsevierの国際学術誌『Diamond & Related Materials』にオンライン掲載されました。
図1. 今回開発したダイヤモンドウェハの平坦化技術のメカニズム
図2. (左)本技術処理前と(右)処理後の単結晶ダイヤモンド表面の走査型電子顕微鏡像
図3. (左)本技術処理前と(右)処理後の単結晶ダイヤモンド基板の写真。
処理後はダイヤモンド表面が平坦になったことで下の本学校章が透けて見える
※1 炭素固溶
炭素がある金属の中に溶け込む反応のこと。その際,金属は元の結晶構造を保った状態である。溶け込める量には限界があり,それを固溶限という。