令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を本学の教員3名が受賞しました。
<科学技術賞(研究部門)>
わが国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究または開発を行った個人またはグループを表彰
長谷川 卓 理工研究域地球社会基盤学系?教授
[業績名] 炭素同位体比変動を用いた温暖化地球の環境解読に関する研究
白亜紀は極度に温暖化が進行した時代です。将来の温暖化地球を理解するため,白亜紀の地球環境を理解する必要があります。過去の特異的環境変動の因果関係を包括的に理解するためには地層に残る個別地質現象の同時性/前後関係を評価すること(対比)が不可欠です。短時間に厚く地層が堆積した環太平洋は白亜紀研究の絶好の対象でしたが,高精度「対比」手段の欠如がボトルネックでもありました。
本研究では,そのような地層には陸上高等植物由来の炭質物が豊富に含まれることに着目し,その炭素同位体比を求め,経時変動曲線を対比に利用する手法を考案しました。
本研究により,炭素循環攪乱現象の記録を含む北海道の地層を,欧米の地層一枚一枚と数万年以下の精度で対比することに成功しました。不可能と考えられた欧米との詳細対比の実現により,環太平洋の泥質岩は白亜紀の温暖化地球研究の重要な研究対象と認識されるに至りました。本手法は世界の遠く離れた地層を高精度で対比する一般的手段として普及しました。
本成果は,過去に生じた環境激変が辿った進行プロセスや現象の因果関係を解読することを通じて,「将来の地球温暖化が如何に進行するのか」の予測に寄与することが期待されます。
矢野 聖二 がん進展制御研究所?教授
[業績名] 肺がんの分子標的薬耐性を克服する研究
肺がんは日本人がん死亡原因の第1位であり,その克服は重要な研究課題です。肺がんの25%を占めるEGFR変異肺がんには,分子標的薬(EGFR阻害薬)が一旦は奏効しますが,必ず耐性により再発するため,耐性を克服する治療法開発が必要とされています。
本研究では,分子標的薬に曝された際に一部のEGFR変異肺がん細胞が初期抵抗性細胞として残存し,後に再発病変を形成する獲得耐性の温床になることを明らかにし,その分子機構を解明しました。
本研究により,分子標的薬に曝されたがん細胞において肝細胞増殖因子(HGF)や細胞膜受容体AXLが初期抵抗性細胞の発生する原因であることが解明され,HGFやAXLの阻害が初期抵抗性細胞を死滅させて分子標的薬の治療効果を劇的に高め,根治も目指しうることが明らかにされました。
本成果は,分子標的薬耐性やその温床となる初期抵抗性細胞が生じる機構を解明し原因分子を同定したことにより,初期抵抗性細胞の阻害薬(AXL阻害薬やHGFおよびその受容体阻害薬)を併用した分子標的薬耐性を克服する治療法の開発に寄与することが期待されます。
<若手科学者賞>
萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者個人を表彰
髙山 雄貴 理工研究域地球社会基盤学系?准教授
[業績名] 社会基盤整備の長期的な影響評価手法に関する研究
土木計画学分野では,社会基盤整備がもたらす効果を適切に予測?評価するために,経済学?交通計画の理論を基礎とした政策評価手法の研究が膨大に蓄積されてきました。しかし,既存手法には,“政策実施に伴う人口?産業集積構造の長期的変化(e.g., 地方都市の成長/衰退)”の影響を捉えることが困難であるという重要な課題があります。
本研究では,この課題を解決するために,経済活動の集積構造変化に関する都市経済?交通計画理論の発展,実証的知見の蓄積を継続して進めています。さらに,これらの成果をもとに政策の長期的効果の計量化法を提示しています。
本研究成果は,社会基盤整備がもたらす長期的な影響を把握するための基礎を与えるものであり,政策評価手法の発展に寄与すると期待されます。