平成20年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

掲載日:2008-4-7
学長メッセージ

平成20年4月7日 金沢歌劇座

本日ここに1,961名の新入生を迎え,平成20年度金沢大学入学宣誓式が挙行されますことは,本学の大きな喜びであります。新入生の諸君には,金沢大学を代表して,歓迎の意を表する次第であります。また,今日の日を共に祝うために,ここに参集されたご家族の皆さまに対しましても,心よりお祝い申し上げます。

 

さて,諸君が入学された金沢大学は,1862年に始まる加賀藩種痘所を源流としています。1949年に当時の第四高等学校,師範学校,工業専門学校,医科大学の歴史を引き継ぎ,新生の総合大学として設立されました。以来,59年の歩みの中で,8学部?25学科?課程を有する大学へと発展してきました。この間,私たちは,社会のための大学とは何か,という問いを,常に自らに投げかけてきました。その集大成として,大学の理念と目標を「金沢大学憲章」として定め,自らを,「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」と位置づけました。目標実現の第一歩として,この度,これまでの8学部?25学科?課程を再編成し,「3学域?16学類」の教育組織を構築しました。金沢大学の新たな歴史を築かんとして,本日諸君と共に新たな一歩を踏み出したところであります。

大学は学問の府であると同時に,社会のための大学を,その存在理由としています。大学の歴史においては,学問の伝統を守りながらも,時代時代の社会が必要としたことにも応えてきました。言わば,持続と適応を軸として,改革がなされ発展してきたと言えます。諸君が生き抜く21世紀の今,私たちは,資源,エネルギー,食料,人口,気候,環境などの,これまで人類が経験したことの無い,地球規模での問題に直面しています。同時に,グローバル化の進む国際社会にあっては,民族の対立,国家間の政治経済の衝突など,様々な問題が生み出されています。国内社会にあっては,急速に進む少子高齢化,地方文化の衰退,世代間の断裂など,解決すべき問題が山積みしています。このように,私たちを取り巻く情勢は,大きく変化しつつあります。この中で,社会のための大学の役割はいよいよ大きく,複雑な問題の解決には,これまでの学問領域の枠組みを超えた,幅広い知識と,それを活用する能力を養うことが求められています。

 

これに応えるべく,金沢大学では「3学域?16学類」という新たな教育組織を整えました。従来の学部の壁を取り払うことにより,これまで培ってきたことを基礎としながら,そこに新しさを取り込んだ教育の体制を整え,社会の要請や,学生諸君のニーズに応えようとするものであります。人間社会学域や理工学域に入学した諸君は,一定期間の共通教育と専門基礎教育を受けた後,各自の進みたい分野?コースを選んでいくことになります。医薬保健学域に入学した諸君は,進路は既に決められていますが,チーム医療という視点に基づいてつくられたカリキュラムで学ぶことで,質の高い医療人として育っていくことが期待されています。

 

諸君には,この新しい学域?学類制を実感し,自らの明日を目指して情熱を持って学んで頂きたい。そして,問題や不満があれば,私や副学長をはじめとした教員に,躊躇することなく話して頂き,学域?学類という新体制を素晴しいものにしていくための営みに,積極的に参加してくれることを願っています。

 

「金沢大学憲章」では,教育の到達点を次のように定めています。すなわち「自学自習を基本として,専門知識と課題探求能力,さらには国際感覚と倫理観を有する人間性豊かな人材を育成する」と定め,学生の主体的な学びを強調しています。諸君は今まで,一定の制約の中で間違いのない事実として多くのことを学んできました。これからの学びにおいては,無限に拡がる学問への挑戦,知を無限に拡げる力の獲得が大切です。大学の教育は,教養と専門の教育からなります。教養教育は,あらゆる専門教育の基礎であると同時に,諸君の世界観の形成と人間性の涵養に大きな役割をはたし,人生をいかに生きるべきか,に指針を与えることでしょう。

 

21世紀初頭のいま,大量生産,大量消費をパラダイムとする,これまでの工業文明は終焉を迎えようとしており,ポスト工業文明への流れが一段と本格化しつつあります。文明の転換期には,それまでの専門知識ではなく,深い教養に基づく「洞察力」が,時代の流れをつかみ将来を設計する上で,大きな力となります。文明の大転換期とも言われる今日,諸君には,時代を洞察し,改革する力の源泉である「教養の涵養」が,強く望まれています。

学問の歴史をみると,断続的におきる飛躍の時代の積み重ねであったことが分かります。飛躍は直感によりもたらされてきました。直感は,専門知識に深く裏打ちされた教養から生み出されるものと,確信しています。学問は分析から統合の時代へと動きつつあります。どうか,諸君は,主体性をもって,幅広く深い教養を身につけ,高度な専門を学び,自己の中でこれらを統合し,課題解決のための「総合力」を高める努力を惜しまないようにして下さい。そうすることにより,時代の洞察,知の創造に重要なセンスとも言うべき「直感力」が育まれることでしょう。

 

フランスの偉大な細菌学者パストゥールは「幸運の女神は,準備された人の心にのみ訪れる」と言いました。このことを肝に銘じ,新たな学びの世界を歩んで行かれることを念じております。

 

金沢大学が位置する金沢市は,加賀前田藩の城下町として栄え,天下の学問の府として長い歴史のある街です。浅野川と犀川,医王山などの自然に恵まれ,美しい四季折々の風景の中に息づいている街です。また,独特の芸術文化を育んできた,知的存在感のある,学生に優しい街と言うこともできます。そこでの生活,人との交わり,文化芸術との出会いは,諸君の勉学をいっそう実りあるものとすることでしょう。

 

角間の里山や小立野の大地には,草木が萌えだし,諸君の入学を歓迎しています。ここ,金沢大学において,「3学域?16学類」の第一期生として学ぶことを誇りとし,充実した大学生活を謳歌されることを念じて止みません。このことを祈念し,告辞と致します。

 

平成20年4月7日
金沢大学長 中村信一

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