金沢大学ナノ生命科学研究所の髙橋康史教授,Yuri Korchev教授,Marina Makarova特任助教,大学院自然科学研究科電子情報科学専攻博士前期課程の河邉佑典さん,理工学域電子情報通信学類の上利龍史さん,熊井光さんは,東北大学材料科学高等研究所の研究グループと共同で,カーボンネットワークをバネ構造で単純化し,従来法よりも10億倍速いシミュレーションを実現し,貴金属を使用しない優れた触媒の設計法を見いだしました。さらに,その設計指針により作製した触媒の活性を走査型電気化学セル顕微鏡を活用した電気化学イメージングによって可視化(※)し,構造特異的な触媒活性を確認し,材料設計指針の有用性を実証しました。
本研究成果により,局所構造が持つ幾何学構造の歪みや不安定性などの,これまで難しかった数値化が可能となり,それらが全体の特性に与える影響の理解が可能となりました。この数学手法と従来手法を相補的に組み合わせた大規模シミュレーションと様々な用途への展開が可能な材料開発が進むことが期待されます。
本研究成果は,2021年6月4日(現地時間)に国際科学雑誌『Carbon』のオンライン版に掲載されました。
【解説】
※ 走査型電気化学セル顕微鏡を活用した電気化学イメージングによって可視化
電解液を充填したナノピペットを用いて試料表面にナノスケールの電気化学セルを形成し,ナノピペットと試料との間にメニスカス状の電気化学セルを形成し,局所的な電気化学計測を行う。ナノピペットを走査することで,触媒活性サイトの電気化学イメージを取得することができる。
図. 走査型電気化学セル顕微鏡と還元電流の電気化学イメージング
(A): 走査型電気化学セル顕微鏡の概要図と走査イメージ。(B): 走査して取得したトポグラフィー図。黄色部は起伏が激しい部分を示している。(C) :走査して取得した(B)に対する還元電流の電気化学イメージング。(D-E) :(B)における点線の還元電流のラインプロファイル。起伏が激しい部分で還元電流値が大きくなっている。