金沢大学新学術創成研究機構の呂梦博士研究員らの研究グループは,中国の唐時代の瓦当の形態変化についての調査を実施し,唐代造瓦手工業の様相を明らかにしました。
中国にはさまざまな歴史的建造物があり,その魅力の1つは特徴的な瓦,特に瓦当です。瓦当の形態は地域や時代によって多種多様で,その学術な検討によって,当時の人々の生活様式や考え方などを知る手がかりが得られます。例えば,これまでの調査では,仏教のシンボルである蓮の花をモチーフにした蓮華文瓦当は単なる建築部材ではなく,信仰や政治的意味を持つ象徴物であることが明らかになっています。
本研究では,長安(現在の西安市)にある西明寺から出土した,唐時代の丸瓦を詳細に調査しました。特に,丸瓦の先端部にある蓮華文瓦当に注目し,膨大な文様のパターンと製作痕跡の情報から,工房での製作方法や,その生産体制,太行山脈の両側における工人集団の交流?移動の実態など,当時の人々の生活様式の文化的?経済的側面を明らかにし,その背後にある分裂した北朝から統一した唐代への時代的変遷を,具体的な考古資料から解明しました。
本研究の成果は,日本や朝鮮半島の瓦研究についても,蓮華文瓦当の型式編年や製作技術などの有益な情報を提供するものであり,東アジア全体の瓦研究の基盤となります。今後は,手工業史と都市考古学の研究の発展につながることが期待されます。
本研究成果は,2020年12月16日に国際学術誌『Archaeological Research in Asia』のオンライン版に掲載されました。
図1. 瓦当と丸瓦の基本情報
瓦当の構造および瓦当と丸瓦の使い方(右下)。
図2. 瓦当の成形過程
瓦当の成形過程は主に,デザイン,母笵の作成,陶製子笵の作成,瓦当の製作,4つの段階からなる。母笵と子笵を使用する生産技法によって,瓦当の大量生産が可能になった。
図3. 瓦当背面の製作痕と正面の文様
瓦当の背面における丸瓦との接合部分には,特殊な接合痕跡が残されていることが分かる。単弁蓮華文瓦当の接合痕跡はほとんどが細く,放射線状の刻み目であり(1),複弁蓮華文瓦当の背面には主に,三角形の刻み目が確認できる(2)。背面の刻み目と正面の文様の組み合わせ状況は,西明寺の造瓦工房における異なる製作技法?製品をもつ2つの造瓦集団の存在を示している。
Archaeological Research in Asia
研究者情報:呂 梦