金沢大学ナノマテリアル研究所の德田規夫教授,松本翼准教授,張旭芳特任助教らの研究グループは,国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター新機能デバイスチームの牧野俊晴チーム長,加藤宙光主任研究員らとドイツフランホーファー研究機構クリストフ E. ネーベル部門長(本学リサーチプロフェッサー(招へい型))との共同研究により,単結晶シリコン上にヘテロエピタキシャル成長(※1)によるダイヤモンド膜から作製したダイヤモンド自立基板を用いて反転層チャネルMOSFET(※2)を作製し,その動作実証に世界で初めて成功しました。
半導体デバイスの省エネ化とともにインテリジェント化のコア技術として,次世代ワイドバンドギャップ半導体の開発が期待されています。その中でも特に高い絶縁破壊電界とキャリア移動度,熱伝導率,長時間の量子情報保持などの特長を有するダイヤモンドは,究極の半導体デバイス材料として期待されていますが,基板コストや製造プロセスに関する課題がダイヤモンド半導体の応用を大きく制限しています。
これまで,德田らの研究グループは単結晶ダイヤモンドを用いた反転層チャネルMOSFETでの動作実証には成功していましたが,単結晶ダイヤモンド基板は10ミリメートル角程度が最大であり,ダイヤモンドMOSFETの社会実装にはダイヤモンド基板の大面積化が大きな課題の一つでした。今回,現在の半導体エレクトロニクスに主に用いられている単結晶シリコン基板上にヘテロエピタキシャル成長によるダイヤモンド膜を成膜(ダイヤモンド-on-シリコン技術)し,そこから作製したダイヤモンド自立基板を用いて反転層チャネルMOSFETの作製,動作実証に世界で初めて成功しました。
今後,本研究成果を発展させ,市販されている300ミリメートルウェハの単結晶シリコンを使用することにより,単結晶ダイヤモンドウェハの課題であった大面積化?低コスト化を解決し,従来の大量生産可能なプロセス装置をそのまま利用できるメリットもあるため,ダイヤモンド半導体の実用化に向けて大きく前進することが期待できます。
本研究成果は,2020年12月4日にElsevierのオンライン雑誌『Carbon』の“Articles in press”に掲載されました。
図
今回作製したヘテロエピタキシャルダイヤモンド自立基板上の反転層チャネルダイヤモンドMOSFETの写真(左)とその断面模式図(右)。
※1 ヘテロエピタキシャル成長法
下地基板となるある結晶上に,それとは異なる結晶を一定の結晶方位関係を保ちながら成長させる手法である。反対の言葉として,下地基板と同じ結晶を成長させるホモエピタキシャル成長法がある。
※2 反転層チャネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)
金属と酸化膜,半導体からなる界面を有する電界効果トランジスタのこと。このMOSFETのゲートに,母体である半導体と同じ極性のゲート電圧をかけると,MOS界面に少数キャリアが蓄積し,母体と反転した極性のチャネル(低抵抗層)が形成される。このチャネルを反転層チャネルと呼ぶ。現在普及しているトランジスタの多くが反転層チャネルMOSFETである。
研究者情報:德田 規夫