金沢大学総合メディア基盤センター/理工研究域先端宇宙理工学研究センターの笠原禎也教授と九州工業大学,名古屋大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA)および日本?米国?ロシアの研究者からなる共同研究グループは,JAXAが開発した「あらせ」衛星とアメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した「Van Allen Probes」衛星によって,宇宙空間の異なる場所で高エネルギー電子と磁場の同時観測を実現し,ヴァン?アレン帯の高エネルギー電子がエネルギーを獲得する場所の特定に初めて成功しました。
宇宙空間に地球を取り囲むように存在するヴァン?アレン帯には,数百キロ電子ボルト~数十メガ電子ボルトの高いエネルギーを持つ電子が大量に捉えられています。このヴァン?アレン帯の電子群は太陽の影響を受けてダイナミックに変動し,しばしば人工衛星の故障を引き起こすなど,大きな損害をもたらすことがあることから,ヴァン?アレン帯の生成消滅のメカニズムを知ることは人工衛星の運用において非常に重要です。ヴァン?アレン帯電子を生成する仕組みの一つに,地球の磁場が乱れることに伴って電子のエネルギーが高まることが考えられていますが,ヴァン?アレン帯のエネルギーが高い電子がどの領域でどの程度広がりを持って作り出されるか明らかにされていませんでした。
本研究では,あらせ衛星とVan Allen Probes衛星によって,宇宙空間の異なる場所でのヴァン?アレン帯電子と磁場の同時観測を実現しました。また,ロシア?アメリカの地上磁場観測網から,地球の磁場の乱れによってヴァン?アレン帯の電子が加速される領域は,従来考えられているよりも経度方向に狭いことを示しました。ヴァン?アレン帯の電子を計測できる観測機器を搭載した衛星が,宇宙空間において経度方向に大きく離れて同時多点で計測を行なった例は過去になく,あらせ衛星とVan Allen Probes衛星および地上地場観測網による国際協調観測によって初めて実現できた新しい成果です。
本研究成果は,ヴァン?アレン帯の電子の生成の変化に関する予測精度を向上させ,宇宙空間の安全な利用にも貢献することが期待されています。
本研究成果は,2019年11月5日(米国東海岸標準時間)に米国地球物理連合の速報誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。
図. ヴァン?アレン帯の電子が加速される場所をあらせ衛星とVan Allen Probes衛星で特定((C) ERG Science Team)
あらせ衛星が朝側に位置していた時に,電子の量の周期的な変動が観測された一方で,電磁場の変動は観測されなかった。他方,同時刻に夕方側に位置していたVan Allen Probes衛星においては,電子の量の変動と磁場の変動の両者が観測されたことから,ヴァン?アレン帯電子がエネルギーを獲得する場所は夕方側の限られた局所であることを明らかにした。
研究者情報:笠原 禎也