金沢大学人間社会研究域経済学経営学系の金間大介准教授は,大学院人間社会環境研究科経済学専攻1年の高野里紗とともに,新市場創出の例として,日本における国産紅茶産業再生の調査を行い,緑茶生産者が技術革新を起こしながら,紅茶産業の復活を推進してきたことを明らかにしました。
日本での緑茶生産は長い歴史を有しますが,19世紀からは紅茶の生産も始まりました。一時は5千トンもの輸出があった国産紅茶も,20世紀後半の経済発展に伴う労働力不足と労働賃金の上昇による価格上昇で競争力を失い,ほぼ消滅しました。ところが,21世紀に入ると,紅茶の生産が復活し,現在はその生産量も上昇しつつあり,品質的にも優れたものとなっています。
本研究では,この紅茶産業の復活を「新市場創出」の例として捉え,さしま茶で知られる茨城県猿島の状況調査を通して紅茶産業再生に至る特徴を明らかにしました。調査の結果,緑茶市場の縮小に伴う新市場の開拓を目指す緑茶農家が主体となり,生産?製造における技術革新と技術移転に加え,新たなサプライチェーンの開拓とそれによる消費者から茶農家への直接フィードバックが重要な役割を果たしたことが分かりました。
本研究の結果は,厳しい環境にありながらも起業家精神に満ちた経営者や生産者が自らの手で新市場創出を実現するプロセスを明らかにしたものであり,その多くが縮小傾向にある国内の食品や農産品生産の新たな指針の一つを示すものであると期待されます。
本研究成果は2019年3月22日に『Journal of Economic Structures』のオンライン版に掲載されました。
図1. 日本における紅茶生産,輸出,輸入の経年変化
政府の後押しにより,19世紀に紅茶産業が誕生した。1954年には輸出が最大となり,外貨獲得にも一役買っていたが,価格上昇による競争力の低下で輸出量は急速に減少した。一方,紅茶の輸入は1964年から1974年にかけて拡大し,1997年には輸入紅茶は2万トンにのぼった。
図2. 茨城県猿島における知識と生産物の流れ
茨城県猿島では,紅茶製品の品質向上のため,消費者とのフィードバックシステムが構築された。茶農家にとって新たな試みであり,新市場の創出および国産紅茶産業の復活に大きな役割を果たした。
Journal of Economic Structures
研究者情報:金間 大介