「AI のELSIセグメント」の提案

掲載日:2022-10-5
研究

金沢大学人間社会研究域人間科学系の一方井祐子准教授と東京大学のメンバーからなる研究グループは,人々が人工知能(AI)に対して倫理的,法的,社会的な観点でどのような意見を持つかを測定し,全体で4つのグループ(楽観的な人々,否定的な人々,法律に問題があると思う人々,法律に問題がないと考える人々)に分けることが適切であると結論づけました。

先端科学技術の研究や開発においては,倫理的,法的,社会的問題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI,エルシー)がさまざまに生じる可能性があります。ELSIへの意識を定量的に測定することで,倫理的(E),法的(L),社会的(S)の中で,特にどの部分への懸念が高いかを知ることができます。

研究グループはこれまでに,AI技術に対するELSIのレベルを測定する手法として,「オクタゴン尺度」(※1)を提案しました。オクタゴン尺度は世界中のAIガイドラインから抽出された8つの共通項目を使って,AI技術に対する態度を測定します。一方で,8項目という比較的多い項目を使用すること,またAI技術への態度に特化しているため他の先端技術に対して必ずしも汎用性があるとは言えないという問題がありました。

そこで今回,より汎用性の高い尺度開発を行いました。ELSIの倫理的(E),法的(L),社会的(S)の3つの領域に関する事項を全体で12項目の質問にし,それをさらに機械学習を用いた決定木分析(decision tree)によって3項目に絞り込みました。そして,AI技術のELSIを測定するときには,この3つの質問(倫理的,法的,伝統的)を使うことを提案しました(※2)。

本研究では,絞り込んだ3つの項目を用いて,これまでの研究でも使用してきた4つのジレンマシナリオ(AIによる歌手再現,ショッピングでのAI利用,AI兵器,AIでの犯罪者追跡)に対する,日本,アメリカ,ドイツの人々の問題意識を測定しました。日本は2021年6月2日から8日にかけて1075人(男性514人,女性561人),アメリカは2021年6月2日から10日かけて1095名(男性537人,女性558人),ドイツは2021年6月2日から10日にかけて1086人(男性539人,女性546人),いずれも20歳から69歳までの男女から調査会社を通じてデータを取得しました。

全てのデータを用いて分析した結果,意見の傾向が異なる4つのグループに分けることがよいと分かりました(図1)。これを研究グループは「AIのELSIセグメント」と呼んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1: 倫理的,法的,伝統的の3軸にプロットした日米独,4つのシナリオの回答。楽観的なグループ(水色),否定的なグループ(オレンジ)に加えて,法律を問題視するグループ(紺),法律を問題視しないグループ(えんじ色)に分けることができた。(クレジット: Ikkatai et al./Kavli IPMU )

 

その他に,4つのシナリオで少しずつの違いはありましたが,全体として,年齢が高い人ほど,AI技術のELSIの問題を懸念することが分かりました。また,AIについてよく理解している人ほど,特に法的問題に懸念を持つことが分かりました。

また,AIによる歌手再現のシナリオでは,ドイツとアメリカは倫理的かつ社会的問題に対してより強い懸念がありました。ショッピングでのAI利用でのシナリオでは,ドイツは倫理的な懸念が強く,日本は法的な懸念が強い傾向がありました。AI兵器では,日本とドイツが倫理的な懸念が強く,さらに日本は社会的,法的な懸念を強く持っていました。AI犯罪者追跡では,アメリカが倫理的,社会的,法的な懸念をより強く抱いていることが分かりました。

本成果はAI倫理の国際的学術誌であるAI and Ethicsのオンライン版に2022年9月1日付で公開されました。

 

(※1)「オクタゴン尺度」を提案した論文のプレス発表
 https://www.ipmu.jp/ja/20220111-OctagonMeasurement


 (※2)ELSIの12項目を3つに絞り込んだ決定木解析を行った論文
 https://doi.org/10.1007/s00146-021-01323-9 
 Hartwig, T., Ikkatai, Y., Takanashi, N. et al. Artificial intelligence ELSI score for science and technology: a comparison between Japan and the US. AI & Soc (2022). 

 

プレスリリースはこちら

Springer

Kavil IPMU(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)

研究者情報:一方井 祐子

 

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