カールスタード大学
2023年度 ヨーロッパ〈スウェーデン〉
T. R.(人間社会学域 国際学類 3年)
私はスウェーデンのカールスタード大学に、2023年8月から2024年1月まで約5か月間留学していました。大学入学当初からジェンダーやセクシュアリティについて学生たちで考え、イベント運営などを行う団体に所属していましたが、日本という小さな国でしか生活したことがない中で考え続けることへの限界を感じ、世界でもジェンダーギャップ指数の低い国として有名なスウェーデンへの留学を決意しました。正直、このようなはっきりした理由は渡航してから後付けした部分もあり、実際はもっとなんとなく、ふわっとした感覚的なものだったと思います(カールスタード、カスタードみたいで美味しそうだよね)。
渡航前に最も重要なのは、英語を話す機会を設けることです。ある程度文法や単語の知識があり、頭の中では文章ができていても、話したことがない言語を口にするのには強い抵抗を感じます。どんなに簡単な文章でも、日頃から口慣らししておかないと発声できないことを強く実感しました。
生活の上で必要な情報の多くは、他の留学経験者たちの素晴らしい報告書の中で得られると思うので、ここでは私自身の経験について書いておきます。私が留学中に何度も悩んだのが、ミスジェンダリングです。英語では第三者について触れる際にshe/heを多用するので、自分にとって望ましくない呼ばれ方をすることが多々ありました。しかし、多様なジェンダーアイデンティティやセクシュアリティに関する知識を得ている人々は日本よりずっと多いです。例えば、授業の前に自分の呼ばれたい名前や代名詞を先生にメールで伝えておくと、点呼の際はもちろん、ディスカッションのグループ分けの表などにもその名前を使用してもらえます。現地で知り合った友人やコンタクトファミリーにも「この代名詞を使用してほしい」と伝えると、スムーズに理解して使用してくれました(時々間違うことはあったけれど)。私は留学生たちが使うメッセージアプリのアカウント名からすべて通称名を使用していましたが、困ることは一切ありませんでした。
しかしながら最も大きかったのは、一緒に日本から渡航した友人たちが私のアイデンティティを尊重しようと努めてくれたことです。日本では全く交流がなく、話したこともほとんどありませんでしたが、留学生活初めの段階で信頼できる子たちだと確信できたので、少しずつお互いのことについて話すことができました。そうした時間を経て、ミスジェンダリングや困ったシチュエーションにあった時でもアイコンタクトをとってくれたり、あとから思っていたことを話したりすることができました。自分にとって一番安心できる、感じたことを素直に日本語で話せる環境を保ちながら、ゆっくりと世界を拡げていくことができたのが一番の救いだったと確信しています。個人の性格や相性もあるかと思いますが、慣れない英語を使い続けた日の終わりに、日本語で一日を共に振り返ることができる友人の存在は、とても重要だったと思います。
留学中の制度としては、コンタクトファミリープロジェクトという、現地で暮らす家族とマッチングできる制度に応募しました。留学前からオンラインで顔合わせをして、お出かけに連れて行ってもらったり、お家に招待してもらって食事やゲームを楽しんだりしました。9歳のお子さんがいるご家庭だったので、スウェーデンならではの小学校でのおもしろエピソードをたくさん聞かせてもらえたことが印象に残っています。私のコンタクトファミリーは大学から少し離れた街で暮らしていたので、カールスタードとはまた違った雰囲気の街並みやローカルなお店巡りを楽しむことができました。クリスマスフィーカではホームパーティーに呼んでいただき、たくさんのスウェーデンらしいお菓子を食べさせてもらいました。
カールスタードでの生活は、日本で生活していた時に比べてほとんど他者の目を気にする必要がありませんでした。日本ではバスに乗るとき、乗車口に足を乗せると、一心に視線を集めるような感覚になっていました。それに対してカールスタードでバスに乗ったときは、運転手が自分の好きなラジオを気にせず流していて、みんなが自分の目的地や生活の方に意識を向けているようで、なんとなくほっとすることができました。移民の割合も高く、肌の色や体型もさまざまな人々が共に暮らしていることが、「他者と同じでいなければならない」という思い込みの呪縛を和らげてくれたのかもしれません。コンタクトマザーからは、新しくカールスタードに来た人と地元の人をマッチングして、生活のスタートをお手伝いするような制度も行政が提供しているという話を聞きました。このように、親切にするコミュニティの範囲の広さを感じる瞬間がとても多かったです。
卒業後は、「社会課題解決を仕事にする」を理念に掲げるソーシャルベンチャーの会社に就職する予定です。留学での体験がきっかけとなったわけではありませんが、社会的マイノリティの方々を含め、すべての人々が安心して自分らしく過ごせる社会、幸せを追求できる社会、居場所を得られる社会に少しでも近づけるよう、新たな挑戦を積み重ねていきたいと考えています。
これから留学を考えている学生のみなさま、まずは自分の留学に対する考えや、どんなことを学んでみたいのか、どんな体験をしてみたいのかなど、気軽に話せる先生や友人、家族など身近な人がいれば良いなと思います。近くにいない場合は、留学企画課の方に相談してみると、誰か良い相談相手を見つけてくれるかもしれません。留学中は、新たな環境の変化に戸惑うこと、毎日のように開催されるパーティーに参加するべきだろうかと焦りを覚えることもあるかもしれません。しかし、最も重要なのは自分が心地よく過ごせる空間で、自分のペースを保って生活することです。海外に行ったからといっていきなりパーティー好きになったり、コミュニケーション能力が高くなったりするなんてことはありません。気が向いたイベントやお出かけには参加しつつ、時にはひとり部屋でNetflixを観る時間も大切にしてください。留学を通して、あなたが少しでも良い時間を過ごすことができるよう祈っています。