チェンマイ大学
2022年度 アジア〈タイ〉
N.K.(人間社会環境研究科人文学専攻 2年)
私はタイ王国のチェンマイ大学 社会学部へ5か月留学しました。私の留学の主な動機は、自身の研究のフィールドワークを行うことにありました。私の専門分野は人類学であり、本来であれば留学制度を使用せずとも、単独で渡航し調査を行い、その調査結果を基に修士論文を執筆することが通例であります。しかしいつ明けるかもわからないコロナ禍の中で、タイの研究ビザ等を取得する事が困難であり、優先的に渡航が可能な術が留学制度でした。
学部時代にチェンマイ大学への留学を経験しており、大体の手続きなどは把握していましたので、事前に情報を収集する割合はそれほどありませんでした。最終目的が修士論文を執筆する事であったので、留学にあたって準備したことに関しては、調査に必要なタイ語の語学勉強、先行研究の下調べ、現地の先生との連絡のみでした。現地では社会学部で開講されている授業を1科目取りつつ、2か月と半月を山の上で過ごしました。
留学先について知っておくと良いことに関しては、学部によって留学生の割合が異なる点です。チェンマイ大学は社会学部であれば留学生が多く英語による授業が多い、教育学部であればタイ人がほとんどでタイ語による授業が多いといったように、当然のことながら、それぞれの学部がどれほど国際化を重視しているかなどの要因によって、このような偏りが発生しています。自身が学びたい事と対応言語の不一致を防ぐために、事前に開講科目を確認し、語学や学びたい分野の基礎知識に関する事前準備をおすすめします。
留学中には調査地の村でフィールドワークをしていましたが、その経験が留学中最もよかった事だと思います。私の調査地はカレン族の村兼カトリックの宗教的拠点でした。私は運よくそのコミュニティに受け入れていただき、様々な他者の親切な思いやりをいただきながら、一時的にではあるもののコミュニティの一員となることが出来たのではないかという事が最も良かったというべき事だと思います。
ただ、調査地が町から離れた山奥であり、「便利」な町にあまり帰れなかったこと、カレン語の会話が分からなかったこと、生活用水の不足、日々出現する虫たちなど、どれも決定的ではないものの、じわじわと精神をむしばむ要因に苦労しました。それを乗り越えるため、日本にいる先生方や友達を頼り、話を聞いて頂きました。当時助けてくださった方々には並々ならぬ感謝があります。
今回の留学経験で、今後の研究人生の指針が定まったように思われます。留学に行く前にぼんやりと定めていた研究テーマや調査地は今回の調査で輪郭を表し、修士論文の執筆を経たことで確実に今後の研究人生の基礎となる経験でした。現在無事に修士論文を書き終え、他大の博士課程への進学が決定しています。
私の場合、金沢大学の留学制度を2回利用させて頂いたわけでありますが、今回の留学は前回の経験を活かしつつ、いわば人生の方向性を決定する期間でありましたので、大変有意義であったと思います。つくづく、留学とはゴールではなく、今後の人生の糧となるべき過程なのだと痛感しております。
私の報告書は、これから派遣留学を考えている後輩の皆さんには役に立たない情報ばかりかもしれません。しかし、これは最近気が付いたことなのですが、若い時間は意外と短く有限です。なんとなく学生生活を過ごせば、4年も5年も光のように過ぎ去ります。今しかできないことが山のようにあるのに、刹那的な選択で人生は大きく変わります。費用が、語学力が、周りが、親が、、、等々できないことにそれなりの理由をつけることは簡単ですが、それらはもしかすると自分自身からの「逃げ」かもしれません。留学に行くことがすべてではありませんが、もし迷いが己の中に生じているのであれば検討してみてはいかがでしょうか。