受賞者が決定しました!おめでとうございます!
令和4(2022)年7月1日(金)から8月19日(金)の期間に募集しました「第5回超然文学賞」に御応募いただき,ありがとうございました。各部門の応募作品の中から,審査員による厳正な審査の結果,下記のとおり受賞者を決定しましたので,お知らせします。
小説部門
? | 氏名 | 作品名 | 所属学校?学年 |
---|---|---|---|
最優秀賞 | 荒川 智哉 | 鈴音を見上げて | 青森県立青森高等学校 3年 |
優秀賞 | 金井 裕翔 | センチメートル | 群馬県立沼田高等学校 3年 |
優秀賞 | 藤田 結 | にわとり | 三重県立四日市南高等学校 3年 |
佳作 | 青野 有佳 | 彼女は | 金沢大学附属高等学校 2年 |
佳作 | 瑞慶覧 寧加 | 誰よりも素敵な夜を | 沖縄県立宮古高等学校 3年 |
短歌部門
? | 氏名 | 作品名 | 所属学校?学年 |
---|---|---|---|
最優秀賞 | 渡邉 美愛 | 青水無月 | 愛知県立旭丘高等学校 3年 |
優秀賞 | 中牟田 琉那 | 真水の気配 | 岩手県立盛岡第三高等学校 3年 |
優秀賞 | 服部 亮汰 | 天井の骨 | 名古屋高等学校 1年 |
佳作 | 大久保 友喜 | 小旅行 | 東京都立昭和高等学校 2年 |
佳作 | 小野 愛加 | 私と依存 | 神奈川県立光陵高等学校 3年 |
佳作 | 鈴木 哲平 | 生まれ落とされて | 名古屋高等学校 1年 |
講評
総評 「言葉のしくみ」について
審査委員長:金沢大学人間社会研究域歴史言語文化学系 教授 杉山 欣也
第五回超然文学賞は、以上のように受賞作が決まりました。
応募件数は小説部門が二十九作品、短歌部門が十五作品でした。前回はそれぞれ二十八、二十三でしたから、小説部門は一作品増えましたが、短歌部門は減ってしまいました。しかし審査に際しては、従来並みかそれ以上のレベルのものを採択し、妥協はしないことを心がけました。結果として小説部門の佳作が二作品と一減であったのに対し、短歌部門は最優秀から佳作まで全席が埋まる結果となったのは、実力本位の審査のために生じた逆転現象です。
また、今回から審査委員が大幅に増えました。私も含めて四名だった学内審査委員は九名となり、研究上の専門領域も、従来の日本現代文学、アメリカ文学、ドイツ文学に加え、日本古典文学、植民地主義文学、中国古典文学、さらには映画学、社会学、教育学の先生にも加わっていただくこととなり、さまざまな視点から作品を評価することができたと思います。それぞれの先生の所属学類はすべて超然特別入試の超然文学選抜に門戸を開いていますので、本入試を活用して本学入学の暁には、きっと頼れる先生となってくださるでしょう。
さて今年は短歌部門からご説明いたします。
昨年、表彰式の場で「今年は優秀賞だったので、来年は最優秀賞を目指します!」と堂々宣言してくれた方がいました。それが今回、最優秀賞を受賞した渡邉さんです。私たち審査委員は、名前や学校、学年を伏せたうえで審査しています。この結果は百パーセント渡邉さんの研鑽の結果。渡邉さんは大いに胸を張ってよいでしょう。昨年の表彰式に同席した受賞者たちも驚きと喜びの声を寄せてくれています。昨年の総評の末尾に一?二年生受賞に対して「この結果に満足せず、次回以降も応募して、その成長ぶりを私たちに示してください。」と書いた私にも大きな喜びです。
渡邉さんの受賞作は昨年より深みが増しています。私には、塚本邦雄や寺山修司などの短歌から多くのことを学んだように感じられました。最優秀賞を目指した研鑽の結果が作品にも表れていることを、とてもうれしく感じます。
現代短歌を学ぶといっても何を読めばいいのか分からないという方のために、ここ数年で出た短歌アンソロジーをいくつか紹介しておきたいと思います。ちょっと内容が新しすぎるかもしれませんが、最前線の短歌とはどういうものか、私もこれを読んで学んでいます。ご自身で買ってもいいし、図書室にリクエストしてもいいでしょう。もちろん、もっと古い歌人でも構いません。好きな歌人を見つけ、その「言葉のしくみ」を学ぶことが、研鑽の第一歩ではないかなと、私は思います。
東直子?佐藤弓生?千葉聡編著『短歌タイムカプセル』(書肆侃侃房、二〇一八年)
山田航編著『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』(左右社、二〇二〇年)
瀬戸夏子『はつなつみずうみ分光器 after2000現代短歌クロニクル』(左右社、二〇二一年)
次に小説部門です。
こちらは応募件数が増え、委員も増えましたので、審査委員会ではいつも以上の舌戦が繰り広げられましたが、納得の結果を得られたと自負しています。これまでより多くの審査委員が読みますから、どこかに似たような話があるとわかって評価を下げた作品があったりもしました。人気ゲームや「なろう」系小説の影響が見え隠れする作品の応募はこれまでもいくつかありましたが、やはりオリジナリティあふれる物語を多くの審査委員が期待しています。
昨年、「描写」について記したからでしょうか、情景描写に優れた作品が増えたと感じています。文学は他の芸術と比べて、読者の脳内再現力に頼る比率が高いものです。あらすじだけでできたような作品や、内面吐露、ナレーションに偏重しないように工夫し、情景描写を活用することで作品は脳内に美しい彩りをもって再現されます。このことを意識した応募作が増えたことは、超然文学賞にとって喜ばしいことです。さらに希望を申せば、その「情景」に「意味」を持たせる「しくみ」がなされると、なおよかったと思います。
林京子「空き缶」(ときどき高校教科書に載っているので読んだことがある方もいると思います)では、長崎に投下された原爆によって目の前で恩師を失った女性が、その先生がかつて荼毘に付されたという木の前で、自分はもうあの悲惨な経験を忘れていいのだ、と思い、力を込めてその木を叩いたとき、その衝撃で手の中に埋め込まれていたガラスが動き、激痛に見舞われます。いうまでもなくそれは原爆の瞬間に体に浴び、残留したガラス。つまり忘れようとしたときに忘れさせまいとする残酷な装置としてその痛みの叙述はあり、彼女は一生そのトラウマを抱えていかざるを得ないことが、一切の説明抜きで分かります。これは小説の「言葉のしくみ」と言えるでしょう。
こういう表現を使いこなせるようになると、小説はより一層、小説らしくなります。またそういう力の違いが、賞の可否を分ける一因にもなります。
その意味で卓越していたのが、最優秀賞の荒川さんの「鈴音を見上げて」でした。この作品には多くの審査委員の評価が集まりました。私はちょっと作中の「妻」が幼すぎる気がして二の足を踏んでいましたが、ある委員の「「まだあどけなさの残る結婚指輪」という表現に、その点も回収されていますよ」という指摘に納得しました。この引用箇所のように、短い文章の中に的確な言葉をそっと添えるように書かれる文体はまさに小説のもつ「言葉のしくみ」を体現したものといえるのではないでしょうか。決して感性や気持ちの赴くままに書くのではなく、その感性や気持ちをストーリーや描写、文体など「言葉のしくみ」にまで昇華したとき、よい作品が生まれるはずです。
小説は評論と異なり、その「しくみ」(それは「論理」と言いかえてもよいでしょう)は暗示的なものに留まります。それを読み解くのが「解釈」ということになります。どうぞ多くの審査委員の「解釈」に耐える作品を目指してご執筆ください。
なお超然文学賞の立ち上げからご尽力いただき、小説部門の外部審査委員をお務めくださった久美沙織先生が今回の審査をもってご勇退になります。後任の外部審査委員は『古書カフェすみれ屋』シリーズで人気の里見蘭先生が着任予定です?。私も『古書カフェすみれ屋』シリーズは愛読していますが、推理小説としての骨格のたしかさ、料理シーンなどにおける描写力、古今東西の文学作品を謎解きの鍵とする教養の豊かさなど、高校生の小説のお手本となる要素が満載です。次年度以降の応募者は、ぜひ里見先生のご著書も参考になさってください。また里見先生には本学の授業「文芸創作実践」も担当していただきます。本学入学の暁にはよき先生として皆さんを導いてくださるに違いありません。
小説部門 講評 審査委員:小説家 久美沙織
短歌部門 講評 審査委員:歌人 黒瀬珂瀾
表彰式
日時:令和4(2022)年10月22日(土)14:00~15:15
会場:金沢市内
当日の様子はこちら
「超然特別入試」超然文学選抜
令和5年度入試出願期間:令和4(2022)年11月1日(火)~8日(火)
入学者選抜要項?募集要項等詳細はこちら